ベロニカは死ぬことにした

パウロ・コエーリョ,江口研一「ベロニカは死ぬことにした」読了。映画や舞台の存在は知っていたけれど、ふとしたきっかけで原作を読んでみることに。20年前にはこういう作品が切望される閉塞感、個の喪失あるいは未来への絶望がブラジルでも蔓延していたのだ…

少女不十分

西尾維新「少女不十分」読了。多分僕が自分の意思で西尾維新作品を読み始めた頃に刊行された作品で、それ故にというか読む機会を逸してきた作品でもあるが、これを今まで読んでこなかったとは何という損失なのかと思えるほどで。というのも西尾維新作品をい…

掟上今日子の乗車券

西尾維新「掟上今日子の乗車券」読了。「〜の色見本」は読了したんだっけと自分の記憶が怪しくなって検索してみたけれど、忘却探偵シリーズについて読了呟きを第一作以外していないことに気付く。ちゃんと記録付けろォ!これといった感動もなくルーチンワー…

100 分 de 名著 スピノザ「エチカ」

國分功一郎「100分de名著 スピノザ『エチカ』」読了。100分de名著は、取り上げられている書籍をまず頑張って読んで、その後に副読本であるこの本を読み、満を持して番組を観るのがいいのかもしれんと思った。それはさておきスピノザからドゥルーズ、アーレン…

エチカ 倫理学 (上)

スピノザ,畠中尚志「エチカ 倫理学 (上)」読了。二週間前に読み終えたのを呟くのを忘れていた。上巻は第三部まで。特に第一部は神が全集合であると看破していて、これは17世紀的に相当アレなんじゃと思いつつ、無神論じゃないからセーフか、教会へのエクス…

エチカ 倫理学 (下)

スピノザ,畠中尚志「エチカ 倫理学 (下)」読了。反発してしまう記述もあるけれど、なるほどこれは強度としても時代背景的にも凄味がある思想書だ。ガリレオ・ガリレイ並みにロックである。最後の「たしかに、すべて高貴なものは稀であるとともに困難である…

混物語

西尾維新「混物語」読了。いよいよ惰性で読んでいる感がするのだが文字密度はそれなりに高いのにすらすら読める適度な表現密度が快適なのかなと考える。内容としては戦場ヶ原さんが一瞬でも出てきたので、そして老倉が一瞬でも出てきたのでそれで満足。それ…

100分 de 名著 オルテガ 大衆の反逆 多数という「驕り」

中島岳志「100分 de 名著 オルテガ 大衆の反逆 多数という「驕り」」読了。副読本として本当に素晴らしい。特に第4回でオルテガを中心とした関連思想を紹介しているのは実に有益。オルテガは最終的に現象を観察し、未来への提言はしなかったという解釈でいい…

大衆の反逆

オルテガ,桑名一博「大衆の反逆」読了。後半は理解不能な部分が多かったが、大衆が貴族となることを求めない(なり得ないから凋落している)という理解で良かったのか再度読み返したい。しかし序盤には心打たれる記述が大変多い。特にultima ratioについて…

愛するということ

エーリッヒ・フロム,鈴木晶「愛するということ」読了。「悪について」に引き続きフロムの著書に対して怒髪天になるの巻。余程相性が悪いようだ。愛の対象によって兄弟愛、母性愛、異性愛、自己愛、神への愛と分類しているのには心底幻滅した。内容は頷くと…

悪について

エーリッヒ・フロム,渡会圭子「悪について」読了。部分的に頷くところもある。けれどそれが大きな言葉によって表現され続けるとフロムの持つ心細さ、不確かなものを確かだと自ら奮い立たせてまで言わねばならぬ背景について思いを馳せた。「手っ取り早い本…

いちから聞きたい放射能のほんとう いま知っておきたい22の話

菊池誠,小峰公子「いちから聞きたい歩車脳のほんとう いま知っておきたい22の話」ようやく読了。初版第1刷だからどれだけ積ん読だったのか。唐突だなと感じたのは4章の「因果関係が証明されないと補償しないというやりかたは見直さないといけない」という箇…

辺境・近境

村上春樹「辺境・近境」読了。実はこれが初めて読んだ村上春樹作品ではないだろうか。随所で「ああ、この文体はどこかで読んだことがある」と感じたが、それは思うに村上春樹に影響を受けた人の作品を読んだ結果ではないかしらん。三十年近く前にこんな作品…

TOKYO WAR MOBILE POLICE PATLABOR

押井守「TOKYO WAR MOBILE POLICE PATLABOR」読了。パト2の映像を見ていたら小説版を読みたくなり、読みたくなったらナイスタイミングで小説が発掘されたので。この小説にアニメ版以上の何かがあるわけではない。アニメ版にない描写はあるけれど、アニメ版を…

夜と霧 新版

ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子「夜と霧 新版」読了。Eテレ「100分 de 名著」で取り上げられる作品は名著である蓋然性が高いが、紛う方ない名著であった。短い作品の中に凝縮された余りに悲劇的な体験。何より第三段階の最後の1パラグラフが素晴ら…

小説・秒速5センチメートル

新海誠「小説・秒速5センチメートル」読了。刊行されてからもう11年が経過するわけだが僕からすると「まだ11年しか経っていないの?」と感じられる。映画では記述されていない部分(特に登場人物の内面、第三者視点)を記述するというのは挿絵がなくともライト…

忘れられた巨人

カズオ・イシグロ,土屋政雄「忘れられた巨人」読了。ああ…すごい。「わたしを離さないで」を読み終えた時とはまた違う切なさ。この物語の寓意を現在の政治的な事柄と結びつけて解釈しようとするのは陳腐に思える。これは「ただの」愛の物語なのだ。人間が根…

わたしを離さないで

カズオ・イシグロ,土屋政雄「わたしを離さないで」読了。これほどまで惹き込まれる作品だとは思わなかった。もっともっと早くに読んでおきたかった。柴田元幸による解説が全てを言い表している。入念な構成、細部まで行き渡る抑制。そして自然に詳らかにな…

ガニメデの優しい巨人

ジェームズ・P・ホーガン・池央耿「ガニメデの優しい巨人」読了。「星を継ぐもの」を読んだのが二年半前という事実に愕然するとともに内容がかなり脳内から欠落していて苦労した。が、自然淘汰による知性傾向の分化という記述には驚きを禁じ得なかった。なる…

ゆるキャン△

京極義昭「ゆるキャン△」観賞。佳作。グレートトラバースでこの作品の劇伴が使われたからというきっかけで鑑賞した人はレアであろう。安直な物語構成に倣わないところが良い。個と集団とどちらかを礼賛するわけでなく、一人一人が個別に行動していても絡み合…

ペンギン・ハイウェイ

森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」読了。驚くべきことに「episode 4 ペンギン・ハイウェイ」に至るまで物語は実に静かだ。文庫版約400ページの物語、最終章はわずか100ページ。その100ページで紡がれる怒涛の展開。物語本編の破壊力も凄いのだが萩尾望都に…

他者の主義主張と無関心

他者の主義主張を理解することや解釈することは嗜好に過ぎず、そうすべきことでも、そうすることで何かが善くなると言えることでもない。故に表面的には不快と思える主義主張を理解しようとすること、解釈しようとすることは、個人の自由意志に委ねられる。…

「私は忙しい」という表現と観測者問題

「忙」という漢字がある。偏は立心偏 (りっしんべん) で心を現す。旁 (つくり) は亡である。これが仮に「心が亡くなる」の意であるとする。心は、肉体が計測した情報を収集する、観測の主体である。心が亡くなるということは、その観測の主体がお亡くなりに…

今日も哲学することができた

どこにも規定されていない義務を持ち出して「Aの権利を行使することは義務だ」と主張する人にも、どこにも存在しない因果を持ち出して「Aの権利を放棄したらBの権利を放棄することになる」と主張する人にも僕はなりたくない。両方とも簡潔に言えば「僕が思う…

今日は哲学することができた

2つ以上の要素に対する変換Tは要素を2つの集合A,Bに属させる。集合Aの要素のうち変換Tにより集合Aの要素となったものは集合Cに属すると見做す要素がある。この「と見做す要素がある」というのはどう表現するか。集合Aの要素かつTにより変換された要素を集合…